さてさて、前回のクイズ(?)の答えをご一緒に考えていくとしましょうか。
エッ? ご一緒に・・・って、お前も正解は知らないのか、って?
いや、まぁ、ほぼ確実だと思う答えは出てるんですが、なにせ Thorens の出してる資料とか説明とかがあるワケじゃないんで、究極的にはのす爺ィの推測ということになります。
それにまた、実際にこの両者を・・・つまり、AR と TD 150 を使い比べた経験もありませんので、ちょっと奥歯にモノの挟まったような言い方にならざるを得ないんですわ。
で、その答えですが、それは GAIN 様がかなり近い線を出しておられたように、外部からの振動に対する反応の違いです。
ただし、GAIN 様は恐らくスピーカーからの振動とか、要するにレコード演奏に直接関わるような類の「振動」を問題にしておられたと思うんですが、そうじゃなく、トーンアームを手で操作する際に生じる「振動」のことです。
AR はこれに極端に弱い。
実際にレコードを載せてスイッチを入れ、回転が定速に達したらトーンアームをアームレストから外して盤の所へ持って行きますよね。
すると、アームレストから外すだけで、もうかなり派手に揺れます。
おおッと、こりゃあ慎重に扱わなくっちゃ・・・ってことなりますわな。
ですが、今度は盤面に針を降ろそうとアームリフターを操作する段階で、リフターのレバーを動かすだけでもまたまたかなり揺れるんですよ。
ここまで敏感にグラグラしてくれますと、やっぱ、扱いにくい。
で、なんでそんなに揺れるのかと言いますと、そりゃ、まずはサスペンションが柔らかいからですが、それに加えて、トーンアームの側にある支持点がひとつだけだっていう不利な要素が大いに関係してます。
だって、やじろべえの頭をちょいと突っつくようなもんですから、至って簡単に動いちゃいます。
これが、TD 150 のようにある程度の距離を隔てた前後二点で支えてあれば、たとえそれがスプリングを介した支えであっても、かなりの抵抗が期待できる。
ですから、トーレンスはこうした不都合を除去するために三ヶ所の支持点のうち二ヶ所をアームボードのすぐ脇に配置したのだというのがのす爺ィの推測です。
これ以外の点に関しては、前回述べたように、三つの支持点にバランスよく均等に重量が掛かる AR 式の方が好ましいに決まってますからね。
トーレンス式にしますと、見た目の対称性こそ維持されるものの・・・と言ったところで、エト裏から見た時の視覚的な対称性など一体誰が気にするの?ってなもんですが〔笑〕・・・ 重量配分は不均等になります。
じゃあ、アーム側に二ヶ所の支持点を配置しつつ、重量配分を均等にする方法は無いのか、と申しますと、理論的にはそういうことももちろん可能です。
にもかかわらず、トーレンスはなぜそういう方法を採らなかったのか・・・?
また、そもそも、AR が最初からそのようなレイアウトを採用しなかったのはなぜなのか?
その答えは下の写真を見ていただきますと簡単に分かります。
オレンジ色の二等辺三角形は前回確認した実際の支持点を示しています。
それに対して黄色の二等辺三角形が、仮に三つの支持点のうちの二つをトーンアーム側に配置した場合にどういう結果になるかを示したものです。
そう、二つのうちの一方はキャビネット(最近は「プリンス」と言うらしい・・・笑)の端からハミ出しちゃいますし、もう一方はかなり右の方に位置することになります。
AR の場合は、右上のヤツに関しては収めることが可能でしょうが、それでもアームレストを立てようとしますと干渉しそうな位置になりますので、まァ避けるに越したことはない。
白い縦の直線は、トーレンスのように縦長のアームボードを装備した場合にメイン・フレームの端がおよそここまで来るヨ というラインを表わしてます。
ですから、その場合は、こちらもまた完全にハミ出すことになります。
念のため、仮想的に TD 150 のエト裏の写真に同じレイアウトを当てはめてみますと、ざっとこんなイメージですね。↓
重量バランスが崩れることを敢えて容認しながら、トーレンスが三ヶ所の支持点をあのように配置したのは、恐らくこのような事情・・・ つまり、良好な操作性を確保するためだったと考えられるわけです。
そこで、ついでですし、この後のモデル・・・すなわち、TD 160 の場合にどうなってるのかを確かめておくことにしましょう。
TD 160 のエト裏というのは、パッと見したところ、こんな具合になってます。↓
何と言いますか・・・、支持点は三ヶ所ともがえらく不規則に散らばってるように見えますよね。
実は何を隠そう、のす爺ィも今回 AR ES-1 を入手してかような問題を考察するまでは、この TD 160 の支持点の位置について、なんかよ~ワカラン配置ぢゃのぉ~と思っていました。
もちろん、それなりの根拠に基いて決定されているであろうことは想像に難くありませんでしたが、それがどのような根拠なのかという問題を深く考えようとはしたことがなかった。
ですが、今日のこれまでの議論をベースに改めてこのエト裏を眺めてみますと、ハッキリと見えてくるものがありますよね。
エッ? イマイチ見えて来んぞ、ですって?
ううむ、それはイケマセンな・・・。
では、上の写真にも色とりどりの線や印を補ってご覧に入れることにしましょう。
ね、これでハッキリしたでしょう。
何のこたァない、TD 150 の三つの支持点のうち、右下の赤い矢印で示した一つだけを黄色い ○印の位置からチョイと右下にズラしたものだったんですよ。
なぜあの支持点をズラしたのか・・・、それはトーンアームの重量を考慮した上で三点への配分をできるだけ均等にしようということだったに決まってますよね。
TD 150 をはじめとするトーレンスの他の諸モデルのような縦長のアームボードを採用しなかったのも、こうしたレイアウトを実現するためだったと推測されますし、サブ・フレームに開けられたトーンアーム用の穴が例のヘンテコな形をしてるのも、恐らくはこれに関係があるんでしょう。
さらに、ついでのついでとして、しんのすけ様も若干の興味を示しておられた例のターンテーブルについても一瞥を与えときましょうか・・・。
・・・ っと、これはもう今さら説明の要もありませんよね、十字架型をしていたサブ・フレームが棺桶型になってるだけで、TD 150 と完全に同一のレイアウトです。
こうした TD 150 との同一性は、この点に関してのみならず、この機種のすべてについて言えることです。
のす爺ィが思うに、これはいわゆる現物合わせ的な手法で以って TD 150 の主要部品をひとつひとつコピーして置き換えていくことによって造られたんではないかと・・・。
そうでなかったら、ここまでソックリにはならないんじゃないでしょうか。
だとすれば、これはトーレンスが AR のアイデアだけをコピーしたのとは違って、典型的な町工場的手法です。
のす爺ィがこのモデルに惹かれるものを感じないのはこのためです。
ただ、誤解のないよう念のために申し上げておきますが、決して性能が良くないと思ってるわけじゃありません。
仮にオーディオ・マニアであったなら、のす爺ィも欲しいと思ったかもしれません。
じゃ、今日はこんなとこで失礼しまして、次回はこの AR ES-1 にトーンアームを組み合わせて実際に鳴らすまでのことをおしゃべりをさせていただきたいと思います。
音も聴いていただけると思いまァす。
(※しゃべったり作業したりで連休でも忙しいなァ~・・・なぁんてのは真っ赤なウソ。)